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2013年3月13日 (水)

測定の誤差

しばらく前に朝のテレビの天気予報を見ていて「え?」と思った事がありました。その朝はたまたま少し霧がかかっていて、その為に若干、視界が悪くその事で運転を注意する様に言っていたのですがその時に映った画像では地図上にどれだけの距離が見えるか、という事を表示していました。それはそれで問題がないのですが問題はその表示されている数値が2.00や1.50や1.25という小数点二桁で表示されていたのです。多分、四分の一マイルとかいう事を表現したかったのでしょうが、それならば2、1.5、1.75と表現すべきであり、それを2.00や1.50と表現するのはおかしくないか?とすごい違和感があったのです。

実は科学、特に化学の世界では2と2.0と2.00は全く同じ物という認識はされていません。特に僕の様に分析化学を(一応)専門とする人間に取ってはその三つは全く別の物です。要するに有効数字の問題なのですが特にこの様に視界の場合は目視でどのぐらいまで何となく見えるか、という事を測定しているので精度はせいぜいで四分の一マイル(400メートル程度)。確かに、気象学には視程というもっと厳密な定義があり、視程計という物もあるのですがそれを街中で実際に行われているとは少し考えにくいのでおそらくただ単純に目視でどのぐらいまで見えるか、という事を観測している物と思えます。そうでなくともだいたいこの程度、という数値しかテレビでは発表していないので実際の有効数字は小数点二桁まで行く事はないものと思えます。それを小数点二桁で表示するのはやはりおかしい、となります。一応、念のために周りの同僚(化学者)に聞いてみたらやはりみんな「おかしいだろう」との見解でした(まあ当たり前)。

ではどうして2と2.0と2.00では違うのか?そもそも、2が実際にどのような数値であるのかはそれだけでは基本的にはわかりません。それが定数であれば、もしくは数式の中で用いられている数値(例えばy=2xとか)では2は整数と考えられ、まさに2です。ところが、実際に計測された数値、例えば長さや重さでは2という事はなく、計測方法によって必ずその計測の確からしさという事が問題になります。したがってどのぐらいまで正確に読み取る事のできる計測方法を使っているかによって2.0になり、2.00になるのです。その為、2.0という事は1.95から2.04ぐらいまでの間の数値、という事になり必ずしも2.00ではないとなります。

一般に化学者の方がこの有効数字という考え方を尊重してそれを元に計算をします。同じ科学者でも物理学では一般には誤差伝播の計算の方を重視する傾向にある様です。どうしてそういう違いがあるのかは定かではありませんが、単純に言えば有効数字の方が計算を簡単にできる事は確かです。おそらく、化学者の方が物理学者よりも計算に弱いのが理由ではないか?と思われますが定かではありません。

ところが、何年か前にビックリする様な事が一度ありました。CERNにEMCalのモジュールのインストールをするのに行った時の話です。その時は僕はすでにアメリカに戻っていて、その代わりにポスドクのBさんがCERNに駐留していました。その時に「スーパーモジュールの正確な大きさを把握したい」との事で計測するのを手伝いました。このスーパーモジュール、大きさにして何メートルという大きさの物なのです。もスーパーモジュールそのものは12のストリップ・モジュールからなっていて、中心から端に従ってだんだんと傾いています。ちょうどこのようになっているのですね。

Supermod

実際の本物の写真がこちらです。

Supermodule
まあ人と比べるとだいたいの大きさがわかるかと思います。このBさん、まずは全長を計るのに巻き尺を使い、それから各々のストリップ・モジュールがどのぐらい傾いているかを計るのに今度はノギスを使って0.01ミリ程度まで計っていました。そういう計り方をして意味があるのか?と僕は不思議に思いました。測定の誤差として巻き尺の誤差はせいぜいで0.1ミリが限度。その上で0.01ミリの精度のノギスをいくら使っても巻き尺の精度が0.1ミリでは全く意味がないのですが…。

実はこのBさん、他にも驚くような事を以前、言っていました。EMCalの制御の一環として温度のモニタリングをしているのですがその為にモジュールの所々に温度センサーが埋め込まれています。この温度センサーの精度はせいぜいで0.01度程度。実際にはノイズなどの関係でせいぜいが0.05度が限度なのですがこの温度センサーの計測の話をある時していたらなんと、0.001度ぐらいまで計測できると信じて疑っていない様です。確かにコンピューターはそこまで表示しますが実際には0.05度程度で数値が動き回っているので精度的にはそれ以上は無理。数値が表示されていても意味がない数値だという事ですがその事に全く気がついていないのか知らない様です。確かにBさんの専門は制御系ではないのですがちょっとそれはないんじゃないの?と思うぐらいなのですが…。

この手のコンピューターによるデジタル表示の恐い所は意味がない様な精度で表示が出ているかもしれない、という事です。簡単に数値として出て来るので有効数字という事を最近の学生達は知らないような気がしてなりません…。実験室で使う電子天秤も0.1ミリグラムまで数値が出ますが結局、100ミリグラム以下はあまりにも試料の質量が軽すぎてあまり信用できた物ではないのですが学生達は放っておくと平気な顔で質量を計ったりしています。また、逆に50グラムという大きな量を量る時に精密電子天秤を使う学生もいたりします。そういう時は普通の普通の電子はかりで十分なのですが…。

昨年だったかにダン・ブラウンのロスト・シンボルを読んでいて僕はかなり仰天しました。僕があまりダン・ブラウンを好きではない、という事を差し引いても話の中に魂の重さを計る為にものすごく正確な体重計が出てくる所は正直あきれてしまいました。実はそういう秤を作る事はできません。数ミリグラムという数値は人の体重を考えると本当に取るに足らない重さでそれこそ糸くず一つでそのぐらい重さが変わってしまいます。そういう事を平気で書いているのですからダン・ブラウンの知識(と本を書く為のリサーチ)はそこまでなんだな、と思いました(まあそれ以前にロスト・シンボルには「イノエ・サトウ」なるとんでもない名前の日系の人が登場人物として出るぐらいですからたかが知れています。個人的にはどうしてこんな駄作が売れるのか分かりません…)。

分数の話の時にも書きましたが、アメリカ人ははっきり言って、小数が嫌いです。小数が嫌だから分数を使うのですがその分数も普段自分が使う分数ならともかくとして(要するに二分の一、四分の一、八分の一、などです)普段使わないような分数を理解しているとは到底思えません。また先日書いた様に、2.0インチと2インチの違いが希薄なので物理の工作室の人に頼んでも放っておいたら2.0インチの立方体が立方体ではない2インチでもない「立方体っぽい」ものにしか作ってくれませんし…。そう言えば昔、「アメリカ人は1インチ以下のデザインがなかなかできない」という話を誰かから聞いた事があります。少し前のアメ車の内装をみると何となくそれも理解できるような気はします。このあたりがやはりアメリカ人と考え方の違いなのかなぁ、と思う今日この頃です。

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